BLESS 小説に挑戦する。

月の光が青年の髪を銀色に照らした。

青年の名はハンス。皇太子の使者と名乗っている。それ以外はどのような素性かはわからない。

晩秋戦争において、長く行方不明とされていた皇太子が生存していたとのこと。

既に帝位は奪われているが、今でもハイロン帝国への影響は大きい。

そんな皇太子の使者として、現われたハンスの第一印象は不愉快なものだった。

「頼りなさそうな奴だな」

初対面でいきなり言われたのだ。

好印象を抱けるはずが無い。

シルヴァンエルフのレティス。メイジである。

様々な出来事を経て、ハンスと出会った。

今、こうして彼の後姿を見つめ、声をかけるきっかけを求めている。

「レティスか?」

先にハンスのほうが彼女の気配に気付き、振り向いた。

「どうも、気付かれてしまいましたか」

ハンスは彼女の顔を見ると、少しはにかんがような微笑を見せて言った。

「君も、眠れないようだな。風にでも当たりに来たのか?」

「はい・・・」

と、答えながらも、本当は、ハンスが外に出る姿を見たからなのだなどとは言えない。

「まだ、再会を喜び合ってなかったな?」

いたずらっぽいハンスの言葉に、少し戸惑いを見せてしまう。

そんな彼女の様子を見て、ハンスは優しく微笑むのだった。

この、小憎らしくも美しい青年を「認めた」のは、マルタ領主を救出したときだ。

ハンスと共に旅をしつつも別行動を取り、行方不明の領主を捜した。

囚われていた場所を特定し、牢の鍵を奪い、ハンスと合流したのだった。

「再会を喜んでいる暇はなさそうだ!」

ハンスはそう言って敵陣に飛び込んだ。

「ここは俺に任せろ!お前は人質を救出しろ!」

わかった!と返事をしながらも、敵はかなり多い。

自分の周囲の敵を焼き尽くしながら、ハンスの周囲の敵にも炎をまく。

ハンスが振り返ってウィンクしながら笑った。

そんな余裕があるのか・・・?

優男だと思ってたけど、戦いなれしてるの?

ハンスの背中が大きく見えた。

この人の背中は私が守ろう。

レティスがそう思った瞬間だった。

「そういえば、一つ謝らないといけないことがある」

月を見上げながら、ハンスが言った。

「っていうより訂正、だな」

ハンスはレティスをしっかり見つめ、真剣な表情を見せた。

気品のある端正な顔立ち・・・

流石にそんな青年が目の前で自分を見つけたら、ドキドキしない女性はいないだろう。

しかし、自分は騎士!と言い聞かせて、何とかその視線を受け止めた。

ハンスの顔には、何箇所か、うっすらと傷があるのがわかる。

自分と歳も変わらないだろうに、この若さでどれだけの戦いを経験してきたのか。

そう思うと、また胸が苦しくなる。

今だけ月が雲に隠れてくれないか?

こんな想いが顔に出てしまったら、恥ずかしくて仕方がない。

それに雲は無く、月の光は容赦なく2人を照らしたが、どうやらレティスはうまく無表情を保てていたらしい。ハンスは話し続けた。

「初めて会ったとき、頼りなさそうな奴だって言ったよな。あれ撤回する」

ああ、あれね。とレティスは思わず苦笑いした。

「まあ、本音を言うと、頼りない奴でもよかったんだが・・・」

ハンスは照れくさそうに笑った。

「俺の旅の話し相手として、側にいてくれればそれでも良かったのだが、少しでも頼りになる奴を見ると、皇太子殿下は人使いが荒いからな」

「皇太子殿下・・・ですか」

「ああ」

「貴方やマティアスが慕う殿下とは、どんなお方なのでしょうね?私もお会い出来る日がくるのかしら・・・」

「ああ、会えるよ。そう遠くないうちに会えるさ」

楽しみだわ、とレティスはハンスを見て微笑んだ。

しばらく微笑み合った後、どちらともなく視線を外してしまった。

下に向けた視線の先に、ハンスの手があった。

その手が、自分の手を握り締めたので、一瞬脈が飛び出してしまわないかと思うほど、体中がしびれた。

「これからも、頼む。力になってくれ」

ハンスの手にも、無数の傷跡があった。そして、思った以上に温かく、大きな手だった。

レティスはその手を両手で握り返し、二人ともしっかりと両手で握手しあった。

「ありがとう!なんだかこれでよく眠れそうだ」

そうだ。明日はグリフォンの賢者の試練を受けるのだった。

そう、2人で。

「おやすみ、友よ」

ハンスはすれ違うとき、レティスの肩にそっと手を置き、そう耳元でつぶやいて宿に戻った。

「友・・・か・・・」

ふっと切ないため息をついて微笑んだ後、レティスは空を見上げた。

戦うことは嫌いだ。

しかし、誰かを守るために戦うのならば・・・!

ハンスの手のぬくもりを刻み込むように、レティスは拳を握り締め、しばらく月の光の下、動くことが出来なかった。

(了)

つづく?

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